2015年1月15日木曜日

女の贅沢







有吉佐和子に「青い壺」という小説があって登場人物のひとりで厚子という主婦が夫に「ホロホロ鳥をたべにいこう」と誘われ芝増上寺前のフランス料理屋にいく(この店のモデルはたぶんフレンチの老舗『クレッセント』だとおもわれる)。
姑をはじめ家族にひたすら尽くしてきて子供もようやく巣立った。
夫は医者だが生活は慎ましく、結婚後はじめての魅力的な申し出に、厚子はウキウキしながらホロホロ鳥を図鑑で調べたり「ホロホロ鳥を食べにいくんですって」と郷里の母親に電話をかけ、ついでに「お母さんがちゃんと教えてくれないから婚家で恥の掻きどおしだった」など恨みもこぼしつつ過ごす。当日はわざわざ美容院に髪を整えにいく。
髪を洗ってもらいながら「これからとびっきりのお洒落をして夫とホロホロ鳥というものを食べに行くのだ」と考えて厚子は女王のような贅沢な気分にひたる。勧められるままに美顔術なんかもやってしまう。





わたしも週に1,2度は「洗頭」(シートウ)に行くのが習慣になって、3年ぐらい経つ。
昔とちがって日本だと美容院に髪結いに通うのはクラブのママとか水商売の女性がおおいと思うが、台湾のある程度の年齢以上の女性は未だにじぶんで髪の毛を洗わず美容院で洗う。
いわば生活の必需品なので値段も安くて200元(7~800円)ぐらい(それでも八年前からすると80元ぐらい値上がりしているのだから、物価高も相当なものだ)。


          



わたしの場合、友人との約束の前とか仕事でお客さんに会う前・ディナーの前なぞに行く。
いわゆる「台湾式シャンプー」で座席に腰かけたまま、洗ってくれる。
まずは肩から首にかけてしっかりマッサージ。
それから髪の毛を泡立てつつ子育てのイライラ・パソコン仕事・呑み過ぎなどでコリにコった頭の皮が、これでもかと揉みほぐされる。
眉毛からこめかみのあたりがジンジンしてきて血が毛細血管にゆきわたる。
洗ってくれる子が「あたり」だった場合にはなおさら嬉しい(洗う技術にも個人差がある。指名もできるが目当ての子がちょうど空いているとは限らない)。
そうしているうちに嫌なおもいをしたことや「陰」で後ろ向きな考えも姿をどこかに潜め、「陽」の気持ちでその日の予定に思いをめぐらせる。
洗いながしてブロー。わたしの多くて厄介なクセ毛もふんわり艶がでて光る。







ああ、贅沢だなあ。
台湾にすんでいてよかった。







そんなとき決まって「青い壺」の厚子の心情がうかぶ。
髪を洗ってもらいながら、厚子はおもう。
髪を他人に洗ってもらうほど、女にとって贅沢に浸れることはない。






うん、たしかに。
それは台湾生活の中で、わたしにとって日々のささやかな贅沢のひとつ。
ああ嫌だなあ
日本に帰りたいなあ
って思うことも少なくないなか貴重な、お楽しみだ。






さて小説「青い壺」。
ここには流転する青磁の壺とそれをめぐる人間、それぞれの人生模様がある。
ことに女に対する有吉佐和子の眼は冷たくきびしい。
(わたし自身も身に覚えのあることだが)女同士の嫉妬とか、いま流行りの格付け=マウンティングとか女の世界はラクじゃない。
そんな「笑顔で殴りあう」女の世界が40年前すでに有吉佐和子によってイキイキと残酷に描かれているものだから、苦笑しながら読んでしまう。たぶん有吉佐和子もおんなじ思いをしたんだろうなあ、と思わせるリアリティがある。
でもそこに有吉佐和子はギョッとする事実を突きつける。
どんなに高価な食事・高級なブランド物・専門家が太鼓判を捺した美術品などなど、世間が褒めそやす「セレブ」であろうとも、そこに普遍的で絶対的なうつくしさ・価値なんて存在しないこと。

それを手に入れたいがために日々あくせくしている我々の目の前に真理を突きつけてくる有吉佐和子は残酷で恐ろしい。
恐ろしいが、この小説はこうも語る。

その人生を紡いでいる本人の物語のなかにだけ、美しさや価値はちゃんと存在すること。

わかっちゃいる。
不惑もちかづき色々わかっちゃいるけれど、ゆきつもどりつする。
そんな人の背中を「ごちゃごちゃいわずいっといで!」と叩いて押しだしてくれる、頼りになる姉御みたいな安心感。そんなものも「青い壺」には確かにある。
いいなあ、有吉佐和子。ねえさんって呼んでもいいですか?






まあとりあえず、明日もひとときの「贅沢」をかんじに頭を洗いにゆこう。
その後のことは、それから考えよう。
ねえ、ねえさん。





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2 件のコメント:

  1. 大寒の夜、一気読みしちゃいました!涙が溢れるのはなぜでしょう?!
    台北の魅力にぞっこんだから。。。

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    1. まるさま、コメントありがとうございます!そういって頂けると励みになります。

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