2016年1月20日水曜日

【台湾映画】我們全家不太熟~赤ちゃんと民主主義





台湾映画「我們全家不太熟」(監督:王傳宗/2015)を観た数日後の2016年の1月16日、台湾で初の女性の大統領が誕生した。
野党・民進党が政権を取るのは2000~2008年の陳水扁・元大統領以来2度目となるが、当時と大きく異なるのは、実質的には「ねじれ国会」状態だった前回に対し、民進党が半分以上の議席を獲得したところにある。
16日の晩に選挙結果を見て、正直なところ日本人として羨ましい気分になった。
少なくとも、台湾には日本よりもずっと生き生きとした民主主義が息づいているように思えたからだ。翌日も、国際選挙監視団ほか海外の新聞が「台湾の成熟した民主主義を評価する」旨をつたえた。
また着目しておきたいのは、おととしの「ひまわり運動」で頭角をあらわした若者たちによる「時代力量」党が5席も獲得したことだ。
蒋経国総統の頃からじわじわと咲き始めた台湾の「民主の花」が、ここに来ておおきく実を結んだ、そんな感慨を抱いた人は少なくないに違いない。
実際、台湾における民主運動は「野百合」「ひまわり(太陽花)」と花の名前を冠している。


さて、「我們全家不太熟」を観てまず思い出したのは、フランスとアメリカで作られた同じ題材をあつかった映画だ。
フランス映画「赤ちゃんに乾杯(3 HOMMES ET UN COUFFIN)」、そしてそれを元にリメイクしたハリウッド映画「スリーメン&ベビーThree Men and a Baby」。
仏・米・台の3本とも、ルームメイトとして暮らす3人の男性の元に突然赤ちゃんがやってきて、すったもんだありながらも赤ちゃんが家族として受け入れられていくという内容だが、今回の台湾版と以前のフランス・アメリカ版との相違は男性たちの立場だ。

大学で法律を学びもうすぐ卒業を控えている威力(張書豪)は、父親の後を継ぐための司法試験を受ける決心が定まらずにいるうえ、ビリヤード賭博から抜けられない。
ルームメイトの大胖(郝劭文)はアダルトビデオ大好き。同級生の小茜(豆花妹)に片思いしているが告白する勇気がない。もうひとりのルームメイト啞牙(陳大天)は自信の持てない変人。
優雅な大人の独身貴族という設定の仏・米版に対して、台湾版は全員が大学生、しかも成熟とは程遠いガキンチョとして始まる。

フランスとアメリカといえば、早い時期から独立と民主に目覚めた国家だ。
それに対し、長いあいだ戒厳令が敷かれ一党独裁のもとにあった台湾に民主化がもたらされたのは1987年。奇しくも1985年に製作された仏の「赤ちゃんに乾杯!」がハリウッド・リメイクされたのと同じ年なんである!!!!!(非常にこじつけ的ではあるが・・・)。

「たんなる偶然」というとそれまでだが、民主的に成熟した国で作られた前2本の主人公は矢張り成熟した大人のオトコであるのに対して、台湾版では未熟な男の子たちが赤ちゃんとの触れ合いを通して成長していく姿が描かれているのは面白い。
そして、成熟していないことが未来にどんな可能性を孕んでいるかということも、今回の選挙とこの映画は奇妙なリンクを見せている。

一見成熟した大人の男性として描かれ、いい車に乗り立派な家に住んで家庭も持っている英語教師が最後には法廷で若者たちに負けてしまうのは、民主政治の先輩格であるアメリカやフランスが、女性大統領誕生という事柄に関して台湾に遅れをとってしまったことを気づかせるし、昨年の「満月酒」につづき家族関係において多様性のある社会を描いた部分は、今回の選挙で選ばれた「小英」新総統が、セクシャリティに関わらず平等な社会を目指してアジアで最初の同性婚が認められる国家になる可能性をも指し示しているようだ。

(ちなみに、日本でも『赤ちゃんに乾杯!』をリメイクしたドラマが富田靖子・荻野目洋子・伊藤かずえ主演で作られたらしい。メインの3人が女性という設定に変わっているが、これ自体、子育ては女がするものという思い込みを具体化したリメイクとも言えて、さすが、未だに女性の社会進出率100番代の国と情けなくなってしまう)

わたしにとって今年の第一本目となった「我們全家不太熟」。
脚本や編集に物足りなさは多少残るものの、台湾映画若手のなかでトップの実力と目される張書豪の演技もひかっていたのに加え、わたしにとって「台湾映画を観る=今の台湾の空気をつかみとる」ことが象徴的に感じられたことで、印象ぶかい2016年の映画はじめとなったのは間違いない。








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