2016年7月1日金曜日

【台湾映画】傻瓜向錢衝 ~台湾の一番美しい風景は人である。


台湾に来たことのある日本人の感想としてよく耳にするのが「人情がある」「人がとっても親切で優しい」という言葉だ。
こういう外国人観光客からの賛美が台湾の若い人に逆輸入されたのか、昨年あたりに「台湾的最美麗的風景是”人”(台湾で最も美しい風景は人である)」という言い回しが流行った。

これまで10年ちかく暮らしてきて、台湾の人の優しさや親切にはほんとうに助けられた。現に今だって、バス利用の子供の送り迎えで毎朝毎夕たくさんの方が子供に席を譲ってくれる。子供の踏ん張る足の力はまだまだ不安定で、台湾のバスの急ブレーキには時にヒヤヒヤさせられるから、席を譲ってくれる親切心は掛け値なくありがたい。
また、「良い行いをする」という事に日本人はテレがちだけれど、台湾の人にはテレがない。そして、自分がどう周りに映っているのかも、まるで気にしない。
その無意識さが「最も美しい風景」となり得ている所以かもしれない。

それとは逆にその無意識さが、マナー違反や秩序のなさに繋がる場合もある。
「もっとも美しい風景」は、同時に「もっとも醜い風景」へと様変わりする危険性を孕んでいる。
それを代表するのが昨今の「頂新」を初めとする食の安全問題で、自分(とその家族)さえ良ければ、金を儲けられれば消費者の健康なんてどうでもいい、という銭ゲバみたいな根性は台湾の「醜い風景」代表とも言えるものだろう。




台湾生まれの日本人が「ふるさと台湾」へもどる様子を描いて話題となったドキュメンタリー映画「湾生回家」を撮った黃正銘監督が、台湾の有名なお笑いタレントコンビ「浩角翔起」を主役に撮った劇映画「傻瓜向錢衝」。
たぶん興行収入的には全くふるわなかった作品だと思うが、最近観た作品のなかで、「これぞわたしが観たかった台湾映画」と思える、いい作品だった。


舞台は台北。
ネジを作る町工場が倒産すると共に、社長と娘は工場を管理していた昌仔(浩角翔起の浩子)に借金を押し付けて夜逃げする。
昌仔は借金のかたにヤクザが経営する高利貸しで働くことになり、同じく負け犬的にこの事務所に流れて来た阿寶(浩角翔起の阿翔)とコンビを組んで、未返済の借金を取り立てるために台湾中を回るミッションを課せられる。
とにかく少し抜けていて気のいい二人はことごとく取り立てに失敗するのだが、これを見ていて思い出したのが、陳玉勳監督の名作「熱帯魚」(1995)だ。
子供の誘拐・都会と地方の格差・水害・受験戦争という深刻な当時の社会問題を背景に、誘拐犯と子供の旅をユーモラスに描いた、笑えるけれどとてつもなく悲しいこの作品が描いたのも、「台湾の最もうつくしい風景は人であり、悲しい風景も人である」という事実だった。
そういう意味で「傻瓜向錢衝」は、「熱帯魚」が明確にした台湾映画の魅力を、正統的に受け継いでいる。



昌仔と阿寶が取り立てに行った先の一つが孤児院で、沢山の孤児たちを世話しているのは足の悪い園長ひとりだった。二人の脅しにも少しも怯むこと無く悪びれずに園長は言う。
「ごめんなさい、返すお金は無いの。そうだ、私の足を切って持って行ったらいいわ、そしたらあなた達の顔も立つでしょう」
こういうセリフ、たぶん日本映画だと成立しないと思う。リアリティがあまりにも無さ過ぎる。
でも台湾映画だと、大げさとも思える言葉が妙な現実味を負って聞こえてくる。台湾のどこかに、こんな園長先生が本当にいるのではないかと思いさえする。

そして「うつくしい人」代表が、田舎に一人で質素に畑をしながら暮らす昌仔の祖母だ。実際、昌仔は祖母を「世界一美しい女性」だと阿寶に紹介する。幼いころから親代わりに昌仔を育ててきた祖母は、昌仔がなにを言うでもないのに、別れ際に大金を渡す。
「なにか困っているんだろう?」

また自分の命もかえりみずに、祖母は昌仔らを細い腕で追手から守ろうとする。
そこに居るのは、「楢山節考」の「おりん」である。
どうして、こんなにも日本人が台湾の優しさに惹かれ、台湾に懐かしさを感じるのか。
それは今や日本には居なくなってしまった「おりんばあさん」が、まだ台湾には存在し得る、そんなことを肌で感じ取れるからではないか。深沢七郎が今も生きていたら、きっと台湾を大好きになったに違いない。


映画のなだけでなく、こんな人もいる。
名前を「陳樹菊」さんといい、13歳の頃から台東の中央野菜市場で野菜を売って暮らしているおばあさんだ。
陳さんは、野菜を売って得た所得を寄付するのを長年続けてきて、その合計金額は1,000萬元(日本円およそ3000万円)にのぼり、そのお金でこれまで学校や図書館が立てられたり、孤児たちが養育されてきたという。
2010年に米国フォーブス誌アジア版で、「アジア太平洋地区における傑出した慈善家のひとり」として選ばれた陳さんは同年、米国タイム誌において「その年の最も影響力のある100人」にも選ばれた。
タイム誌の表彰パーティーへの招待に対し、陳さんは当初「日常のことをしただけで、大したことをしていないのに」と出席を辞退する意向を示していたという。
こんな人が台湾からは出てくるという話を聞けば、妙に納得し深く頷かずには居られない。

台湾ってホントに、そんなとこなのだ●


「傻瓜向錢衝 Two Idiots」
監督:黃銘正/2016/台湾映画




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