2016年7月23日土曜日

【台湾映画】五星級魚干女~歴史のもつ煮込み(※ネタバレあり)


わたしにとって「もつ煮込み」といえば大阪、そして「東海林さだお」だ。
東海林さだおの本は何故かトイレによく似合い、「笑いのもつ煮込み」もなんど繰り返し読んだかわからない。台湾ブームの昨今だし、東海林さだおにぜひ「台湾の丸かじり」を出して欲しい(ぜったい買う)。

というのはさておいて・・・

台湾は地理的に、日本・中国・アメリカという三つの大国に囲まれている。
住んでいると、確かにその位置関係と同じく文化や経済・政治的にもちょうどのその真中にいて、それぞれの影響を色濃く受けていると感じる。

台湾とアメリカの関係と言われても日本人にはピンと来ないかもしれないが、実はアメリカへ移民した台湾人は台湾の人口比率でいえばとっても多い。
李安の映画「推手」でもアメリカに移民した台湾人一家の生活が描かれるが、これには政治的な動きが大きく関係している。
例えば、李登輝をきらった蒋介石夫人の宋美齢に代表されるように、国共内戦後に台湾へ政府がうつった後に台湾に馴染めない、もしくは民主化にともなってアメリカへ移住した外省系台湾人は少なくない。陳水扁が総統に当選した時は、中国が攻めてくるのを恐れて多くの人がアメリカへ脱出したという話もきくが、また逆に、国民党による戒厳令中の白色テロを恐れてアメリカに渡った本省系台湾人もいたりする。
現在アメリカにおける台湾系アメリカ人は10~50万人と言われている。
しかし、総じて高度な教育を受け社会的地位や収入の高い人が多い、という特徴がある。

また学歴重視の社会ということもあってか留学組も多く、今の小英大統領もアメリカで法学修士をとっている。前の馬英九総統もハーバード帰りだが、スタンフォードとかハーバードを出まして、なんて人はそのへんにゴロゴロしているし、子供がアメリカにいるとかパスポート持ってるとかいうのも珍しくない。英語能力は平均的に日本人より高い印象だし、年配の人でも英語が達者な人が多い。東区のクラブで遊んでる若い子の中には結構な確率で裕福な親をもつ「ABC」(American born Chinese の略)がいて、忠孝敦路にあるZARAのメンズ・コーナーでは見た目台湾人だけど会話は英語みたいな子達がウロウロしている。

そんな訳で、台湾の若い子は「日本派」と「アメリカ派」に分かれるのだけど、すごく大雑把にいえば、ゲームやアニメ・漫画に興味がある子たちは「日本派」で、そういったコダワリや趣向がない子は自然と「アメリカ派」になっている印象を受ける。アメリカ派の子たちは、東区で目立っているようなABCの子供たちやアメリカでの生活に、漠然とした憧れを持っているようだ。


この「五星級魚干女」の主人公・芳如(柯佳嬿)もそんな、アメリカ留学を夢見る女の子だ。
実家は台北の奥座敷、新北投にある古い温泉旅館「今日温泉旅館」。
父母を事故でなくし、旅館の経営者である淑芳おばあちゃんに育てられた。
「魚干女」は、ひうらさとるの漫画「きらきらひかる」で生まれてドラマ化され、日本で流行語にもなった「干物女」(恋愛をはじめ色んなことを面倒くさがる女性のこと)のことだが、タイトルの通り主人公の芳如も恋愛を放棄した如きだらしない生活を送っている。

ある日のこと、たったひとりの身内である淑芳おばあちゃんが足を怪我して入院したことが元で、実は旅館がたくさんの借金を抱えており、このままではアメリカ留学どころか、歴史ある旅館も畳まなければならない事態が発覚した。
それを知った芳如は、淑芳おばあちゃん秘蔵の年代物の「バイオリン」を目当てに旅館に「居残って」いたアメリカ人のバックパッカー・アレン(Allen)を巻き込み、すったもんだしながら「五つ星」の旅館を目指して奮闘をはじめる。

この映画の肝になるのが、淑芳ばあちゃんの「バイオリン」である。
実はこのバイオリン、国際的に有名な日本人バイオリニスト「山田智生」がまだ無名だった戦前、この旅館へ逗留中に恋仲になった淑芳ばあちゃんへと残した思い出の品だった。

バイオリンの価値を知り、一時は売り払ってしまうことも考えた芳如だったが、ある日バイオリンの持ち主である日本人・山田智生が訪ねてくる。
それにより、これまで知らなかった真実、つまりこの山田智生が芳如の実の祖父であること、そして色んな行き違いがあったものの、山田智生がいまだ淑芳お祖母ちゃんを想っていることが明らかになるのだった(じいちゃんばあちゃんの回想に全く色っぽいシーンがない割りに、子供ができてたと聞いた観客がショックを受ける仕掛けになっている)

山田智生は淑芳ばあちゃんに「これから日本に来て一緒に暮らさないか」と持ちかけるが、淑芳ばあちゃんは拒否する。
「わたしは、この旅館を続けていかなければならない」。
かくして、アメリカ人アレンとの恋愛を育み力を借りながら、芳如は淑芳ばあちゃんの右腕として、「山田智生のバイオリン」を目玉に、世界中から客を呼びこんで旅館を盛り上げていくのだった。

そもそも、西洋で生まれた「バイオリン」が日本人によって旅館に持ち込まれるのは、西洋列強によって一足先に近代化した日本が台湾に「近代」の文化を持ち込んだ歴史そのままだ。
さらに、何日かの滞在を共にし恋愛を経た日台カップルが、その後連絡が取れなくなりつつも、子を宿し孫へと代を重ねるくだりは、戦後に日本が台湾を放棄し、また1972年にも国交断絶で、台湾日本語世代云う所の「二度捨てられ」ながらも、ずっと日本に「友好」以上の好意を保ってきてくれたことを彷彿とさせる。

ここで大事なのは、淑芳おばあちゃんが、日本で一緒に暮らそうと山田に誘われながらも、「いいや、わたしはわたしでやっていく」と断るところだ。
日本に対して思慕はもちつつも、自立した個人として目覚めた「台湾」は、アメリカとも上手くやりながら国際社会で大発展を遂げ、先進国の仲間入りをした。
山田智生の残したバイオリンを目玉に新たな魅力のある旅館として売り出していくあたりは、最近台湾で主流になりつつある、日本時代の建築遺産を活かした観光スポットの開発という流れとも重なる。


そんな意味でこの「五星級魚干女」は、日本時代の遺産を受け入れ、アメリカ文化も取り込み、それら全てを活かしながらしなやかに生きてゆく台湾の自画像である。

プロデューサーの葉天倫がどこかで、「この映画は台湾へのラブレターだ」
と語っていたが、「海角七號」が日本へのラブレター、「湾生回家」が日本から台湾へのラブレターであるなら、まさにこの「五星級魚干女」は、台湾人が台湾みずからへ送ったラブレターである。
さらに言えば、この旅館の和風家屋の一部を見ていてどうにも「北投文物館」に思える(公表されていないので特定出来ず)のだが、もしそうならば、このロケ地は戦時中、神風特攻隊の軍人が最後の夜を過ごしたかも知れない場所なのだ。そして、彼らの死にゆく先はアメリカ軍の母艦であった。

歴史のそんなこんなを全てを飲み込んで消化して、台湾人が台湾に対して愛を語る。
そんな時代の映画ができていることが、とっても頼もしいし、嬉しい。
最近の戴立忍事件をはじめ、中国の意向によって映画の方向性が左右される昨今において、益々窮屈になっていく台湾映画の現状において、それは紛れもなく貴重なことなんである。


ちなみにヒロインの柯佳嬿はその後、歴史ドラマ「紫色大稻埕」のヒロインで大ブレイク。これから益々将来が楽しみな女優さんだ。


「五星級魚干女 Welcome To The Happy Days」
林孝謙 監督/2016/台湾
























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