2016年8月31日水曜日

【映画】カフェ・ソサイエティ Café Society ~映画という宝石箱



ウディ・アレンの作品が、そもそも苦手だった。
超絶お洒落で、都会風で、小粋な演出と会話。
わたし好みのドロリンとした情念や野暮ったい一生懸命さなんて、入りこむ隙とか無さそう。ユダヤ自虐ギャグも日本人にはイマイチつかみ難そう。
そんな偏見で、じつは殆ど観ていない。
これにピッタリあてはまる言葉を「食わず嫌い」という。


なのに、なぜ今回の新作「カフェ・ソサイエティ」を観にいったのか?
それはポスターが可愛かったのと、コーヒーが関係ありそうなこと、そして「もう40歳だし、そろそろウディ・アレンでも観てみるか」という好奇心からだ。

果たしてその目的の中の「コーヒーが関係ある」以外の目論見はすべてあたり、見事そのパーフェクトな世界観に打ちのめされてしまったのだった。
衣装やインテリア、小道具から照明、エキストラまで練りに練られたディテールの美しさ。
一枚一枚の画面が、さながらエドワード・ホッパー(Edward Hopper)の作品を眺めているかのよう。これと比べればディカプリオの「華麗なるギャッツビー」なんてシルクとナイロン、コヒーバとマイルドセブン(今はメビウスというらしいが)ぐらい落ちてしまう(好きだけど)。そのためだけにでも、チケット代を払ってシアターの大画面で観る価値はあるだろう。
現在の映画ができうる限りの「エスプリ」を煮詰めたような、「映画」という宝石箱の蓋を持ち上げて覗き込みうっとりする感覚。
きっとこの作品の舞台になっている頃、「映画」がもっていたキラキラした感じは、今の何倍もあっただろうって想像できる。


時代は1930年代のアメリカ。
ハリウッドは全盛期、ニューヨークではユダヤ系マフィアが力を伸ばしていった時代である。
主人公のボビーはニューヨークのユダヤ家庭のうまれ。失恋をきっかけにハリウッドで弁護士として成功している叔父を頼って西海岸へ行く。「夢のハリウッド」で心機一転を計るボビーは、叔父の秘書であるヴォニーに一目惚れするが、じつはこれが叔父との三角関係のはじまりであった。ヴォニーはボビーの叔父を選び結婚する。傷心のボビーはふたたびニューヨークへと帰り、マフィアである兄の経営するナイトクラブを手伝うようになった。
ボビーはハリウッドに居た時代に培った人脈をつかい、ナイトクラブをニューヨークで一流の社交場「カフェ・ソサイエティ」(当時のマフィアや芸能人・実業家が入り乱れた上流社会のスタイル)へと仕立てあげる。ナイトクラブの客のなかに、理想的な優しくうつくしい伴侶も得た。
そんなある日、ヴォニーと叔父が休暇でクラブに客として訪ねてくる。
「焼けぼっくいに火」形式でボビーとヴォニーはふたたび、「ハリウッド」や「ナイトクラブ」のきらびやかさとは程遠い、かつてふたりが西海岸で好んだ素朴で温かみあるデートを重ねる。
休暇がおわり、ヴォニーは西海岸へかえる。
新しい年があけるその時、ボビーとヴォニーは違うシチュエーションに身を置きながら、かつての恋人に思いを馳せるのだった。



ところで、マフィアであるボビーの兄は、とある殺人事件がもとで逮捕され死刑になる。電気椅子に座るまえ、兄は輪廻転生を教えないユダヤ教から宗旨替えする。これに続く宗教に関して考察するシーンの中に、この映画の肝とも言えるセリフが出てくる。
善悪や真実について「そこに答えはない」という言葉だ。

ボビーとヴォニー、西と東に身をおきながら距離を越えて見つめ合うようなラスト・シーン。ふたりは、それぞれの伴侶に尋ねられる。
「ぼんやりして、何を考えてるの?」
(『Your eyes looks so dreamy』みたいなセリフだった)
ここで、前段の肝の言葉が効いてくる。
今の夫(妻)を愛しているけれど、前の彼氏(彼女)もすきで、そこに「答えはない」。



「ねえ、本当にわたしのこと愛してる?」
とか、恋愛中は愚直な質問をあいてに投げかけるのが世の常だ(だよね?)。
でもそこで、「愛してる」って答えられても満足するものでは、ないのですよね。
すべては過ぎてしまってから、思い出のなかに「ああ、あの時のあの言葉は本気だったなあ」とか、「あの感情はほんとだったなあ」って思いかえす。
これこそが「真実」だし「人生の美味しい部分」なんだよ、っておっしゃるのね、アレン巨匠は。さすがだ。40歳になってようやく、その境地に一歩片足が突っ込めた気がする。


台湾での公開タイトルは、「咖啡·愛情」。
よくわからないけれど、「コーヒーみたいに、苦い愛情」といったところだろうか。
何となく、台湾で流行りのカフェ関係の映画と勘違いして観に来る若い人も多そう。
と思いきや、殆どのお客さんが人生の酸いも甘いも噛みわけたようなご年配の方たちばかりだった(老眼のためだろうか、座席も後部三列が埋まっていた)。

ウディ・アレンが好きなご高齢の台湾人紳士淑女。
ちょっと膝つき合わせてお話してみたくなる。









0 件のコメント:

コメントを投稿