2016年9月15日木曜日

【台湾映画】銷售奇姫 Ace of Sales~ほんとうのわたしなんていない。



自分の血液型はBと思い込んで育った。母に「たぶんB型」とずっと言われてきたからだ。そもそも、細かい・慎重・几帳面とかのいわゆるA型的な特徴からものすごく、縁遠い性格である。
しかし蓋をあけてみるとA型だった。
わかったのは、30歳もすぎて子供を妊娠したとき。
電話で母に「ねえ!A型だったんだけど!」と伝えたら「えーもう血液型占いは信じない」と返され、古い友人たちもニワカには信じられんといった様子だった。

不思議なことに、A型だとわかったときから少しずつ「A型」的な自分が顔を出してきた。細かいことがいちいち気になったり、変にマメなとこが出てきたりとか。
そう、けっきょく思い込みなんですね。
たどりついた結論は「血液型占いは当てにならない」というものである。
つまり、母は正しかったのだ。



ここんとこ台湾でよくみかける「想念自己」という言葉。
映画「アリスのままで」の台湾版タイトル「我想念我自己」から流行りだしたような印象で、英語でいうと、「Be myself/yourself」、日本語だと「じぶんらしくあれ」ってことだろう。

「本当のわたし」とか良く言うけれども、ホントのじぶんってなんじゃ?
お友達の誕生日のメッセージにわたしはよく「○○ちゃんらしい年になりますように」的な言葉をつかうのだが、「○○ちゃんらしい」とは、わたしが考える「○○ちゃんらしさ」であると同時に、その人が「じぶんらしく過ごせたな」と思えることが肝要だ。
しかし、その「じぶんらしい」というのも、あくまでも「こうありたい」姿である。
仕事とか趣味とか外見だとか、そのひとが自分に期待する、もしくは規定する「こうありたいじぶん」「じぶんを納得・満足させることができるじぶん」であることが、ここでいう「じぶんらしく過ごす」ことなのである。
つまりそこに「ありの~ままの~♪」じぶんはいない。
「ほんとうのわたしは違う」って心のなかで反発しても、その時点では「でもほんとじゃないだもん」と思ってイラついているわたしが、「わたし」のすべてである。



で、映画「銷售奇姫」。
ざっくり言えば、「じぶんらしさ」を獲得する女の子についてのコメディ映画だ。
ちなみに主題歌はS.H.E.のELLAが歌う、その名も「想念自己」。

会社の係長職だった夙芬‬(スーフェン/白歆惠)は、部下のミスで会社をクビになってしまう。「どんなことがあっても君の味方だよ」と支えてくれる実直な電気工の夫・智凱(ツーガイ/納豆)の応援で職探しに励む夙芬だが、前職のミスが問われどこも雇ってくれない。
(この夫役の納豆がいい。映画がダレそうなタイミングでいい感じのほのぼの感を出してくれる)
ようやく夙芬‬が得たのは、大きなスーパーマーケットでの実演販売という同じ営業といえども以前とはまったくジャンルの異なる職場で、美秀(メイショウ/林美秀)が実演販売場の女王として君臨しているのだった。

内気な夙芬は、なかなか仕事に馴染めない。というよりも、企業でバリバリ働くキャリアーマンとして働いてきたじぶんが、スーパーの実演販売なんかに・・・というミジメな気持ちから、どうしてもぬけ出す事ができない。
「この仕事、バカにしているんでしょ」と美秀から突っ込まれ、そんなことない!とつっぱねた夙芬は、ひょんなことからセールスの天才である師匠を得て、セールスの真髄を伝授される。その奥の手とは、「スーパーセールスのマスク」をかぶるフリをすること。
マスクを装着すれば、じぶんは素晴らしいセールスができる!と信じることである。
それ以来、夙芬はじぶんが扱う商品について徹底的に家で研究を重ね、現場で「マスク」を装着!みごとに成功して、これまでとは全く違う、実演販売で輝く姿をみせる。
その後成績はウナギのぼりで向上し、ついに月間売上が美秀に追いつくまでに成長するのだった。
自信をつけた夙芬は、つぎの舞台を「テレビショッピング」に求めるが、ちょうど美秀も同じテレビ会社に応募していた。共に採用されたふたりは、こんどはテレビショッピングを舞台にライバルとして戦うことになる。
テレビショッピングの司会者として、順調にキャリアを積んでいく夙芬。
が、それにつれて夫・智凱との距離ができ、段々とじぶんらしさを失ってる気がして悩むのだった。



台湾のケーブルテレビは第四台と呼ばれるが、チャンネルが100個以上ある。
その多くを占めるのが、仏教系の番組とテレビショッピングの番組だ。台湾の人口は2300万人で日本の6分の1ほどなのにも関わらず、テレビショッピングの売上は割合にしてもかなり高い印象だ。人気のあるショッピング番組の司会者なら、日本でいうジャパネットたかた社長ぐらいの知名度はあるのではないだろうか。
例えば、富邦グループが手掛ける大手のチャンネル「MOMO購物台」の名物司会者で、「テレビショッピングの女王」と呼ばれる孫嘉禾も、その挙動についての報道のされ方は芸能人なみだ。
もともとエバー航空のCAだった孫嘉禾だが、転職して自動車会社や南山人壽保険でスーパー営業の名を欲しいままにし、2002年より「MOMO購物台」に入社。常々奇跡的な電話注文記録を打ちたて、毎分売上20万元、年間5億元の業績をあげる、まさにこの映画タイトルそのままの、「Ace of Sales」である。



「マスク」を装着することで、それまでと異なるじぶんを手に入れる夙芬だが、じつはそこで一番大事なのは、商品について地道に研究して自分なりの売り方を編み出したことにあった。
ひとは、じぶんを信じることで努力を重ねることができる。
そうそう、そういえば台湾産のウイスキーを世界一にまでした「KAVALAN」の李社長も言っていた。
「屋台のおじさんやおばさん、みんな経営からものづくりまで全部ひとりでやってる。本当はやろうと思えば何でもできる。じぶんはデザインが専門だから経営のことはわからない、またはその逆のことを皆よく言い訳にするけれど、実はそんなことはない。
脳みその量なんて、誰だってそんなに違いがあるもんじゃない。大事なのは、頭のなかの開いてない鍵をあけることなんだ。要は、鍵は開くはずと信じて努力することだよ」

思い込みを捨てて、じぶんを信じてがんばる。
その時点で「ほんとのじぶん」は常に更新されている。昨日からきょう、きょうから明日のじぶんは、すでに少しちがうんである。そこにおなじ部分を見出すとすれば、それはじぶんへの「信頼」ということになるだろう。
同時に、じぶんが選択してきた人間関係についても「信頼」する。
恋人、友人、家族。
じぶんや周囲への信頼を積み重ねていくことで、ひとは段々と「じぶんらしい」じぶんに近づけるのかも知れない。


最後に、この映画の見どころは台湾語で繰り出される実演販売の口上だ。
林美秀はさすがとしか言いようがないが、夙芬‬役の白歆惠も相当がんばっている。台湾語だからこそのリズムは「寅さん」の啖呵売(大好き!)をも彷彿とさせる名調子。北京語だとなかなかこうは行かないんである。


銷售奇姫 Ace of Sales
監督:卓立/台湾/2016




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