2016年11月27日日曜日

【第53回金馬奨雑感】金馬奨って、なんなんじゃ?



昨晩、第53回目の授賞式を迎えた金馬奨
台湾の「一路順風」「再見瓦城」が多くの部門でノミネートされていたにも関わらず、主演男優・女優賞、監督賞、作品賞とメインの賞をすべて大陸勢に持って行かれた。
受賞者のスピーチも北京訛り・広東語が飛び交う授賞式となり、毎週のように台湾映画を観に劇場へかよって「國片」(台湾映画のこと、日本人がいうところの”邦画”)を応援しているものとしては、一昨年を彷彿とさせる、気分が滅入る結果となった。
今年の台湾作品は、イマイチ不作だったのは確かだ。「これだ!」という作品が本当に少なかった。また大陸の受賞作も観れていないものの、ダイジェストを観る限りはどれも魅力的な作品で、受賞にはそれなりの説得力もあるんだろうし、「妥当だった」という声もチラホラ聞く。
それでも、やっぱり残念だ。特に「一路順風」の許冠文マイケル・ホイ)が主演男優を逃した瞬間は机を叩いて「ごらー!ざけんな!」と叫びながら立ち上がってしまったわ、や~ね。

終了後も気持ちが収まらず、FBにも「台湾で行われる映画賞を台湾映画にあげなくて、台湾映画はどうやって発展していくねん?」という意味のことを中国語で投稿したら、同時間にやっぱり怒っていた愛台湾な作家のハリー・チェン氏(『人情珈琲館』)も賛同のコメントをくれて、少し慰められた。

翌日の各紙の温度差はいつものごとく、ではあるが、とくに自由時報の「金馬變金鶏」の見出しには「うまいこというな~」と感心させられた。「金鶏」は「百花」と合わせて豪華絢爛な中国文化を象徴する言葉だ。
台湾と中国のあいだの最前線だった「金門」と「馬祖」の頭文字を取って、「中華民国の映画の発展を促すために」「蒋介石の誕生日のお祝いとして」始まった金馬の歴史は、今年の春に公開されたドキュメンタリー那時此刻~The moment」に詳しいが、昨晩の状況をおもえば、時代の移り変わりにしみじみしてしまう。

今や台湾映画には大陸の力が欠かせない、と思っている映画人は多いだろう。マーケットの規模や資金能力、製作環境、どれをとってもケタが違う。
以前、台湾映画業界で働く友人から聞いた話だが、台湾の映画を大陸で上映したり資金を集めるには、最低2名の中国人俳優をメイン・キャストに入れなければならない、という法律があるらしい。だから、現在製作されている台湾映画の多くがこの条件を満たすために頑張っている。
「自分が観たい」映画の完成を実現させるのが、映画人の仕事だ。だから、どんな手段を使ってでも映画を完成させるのは当然だし、そういうものだと思う。
でもそれによって、台湾らしさが映画から失われたり、自由な映画づくりが出来なくなるとすればやっぱり心配だ。
それで思いだすのが、「六弄珈琲館」の上映前に大陸のネットで「ひまわり学生運動を支持したらしい=台湾独立派」というレッテル炎上した、戴立忍(ダイ・リーレン)の事件だ。大陸ですでに完成していた主演映画の公開はおじゃんになり、戴立忍自身も「わたしは独立派ではなく中国人だ」みたいなことを長々とした手紙で釈明した挙句に、何とか収束した。一時は「六弄珈琲館」の出演シーンも削られるという噂もあったが、そこには影響はなかったようだ(たぶん)。
何だかもう随分前のコトたいな気もするが、たかが半年前のこと。台湾の映画人にとって、中国政府は怖いだろうが、同じように大陸ネット民の反応も怖いだろう。大陸の映画のスポンサーはテンセントをはじめ、インターネット会社が多い。
「金馬は大陸の映画に不公平」という意見で台湾映画がボイコットされる事態になりでもしたら、大ゴトだ。
審査は揉めに揉めて100分にもおよんだらしく、「殺し合いみたいな現場だった」と漏らした審査員がいた。全力で検討しただろうし、審査員はみなぜったいに「金馬は公平」と豪語するだろう。
今年の台湾映画がイマイチだった。結局、結論としては、そういうことになるのかもしれない。

でもそれでも、一個ぐらいはな~。。。
そもそも、台湾人自身が台湾映画を観ない。多くのスターが出て華やかにテレビ放映され注目される金馬映画だからこそ、台湾映画が賞をとれば「じゃあちょっと観に行こうか」という気持ちにもなるだろう。
でも六部門でノミネートされて無冠って、、、(まだ上映始まってないのに、これでは大打撃である)となれば「やっぱ台湾映画はだめなんだ」って台湾の観客は思うだろうし、とくに台湾本土意識の強い人なんかは、「しょせん映画業界なんて外省人の世界だから」と、更にひねくれてしまうというものだ。
大陸の影響下に縛られない自由な中華文化の発展というコンセプトで始まった金馬だからこそ、台湾映画に対する影響力は大きい。でも、一昨年に「KANO」がまったく賞をとれなかったことや、昨年「太陽の子」みたいな良い作品が音楽以外まったくノミネートされなかったことなど、現在の台湾人の多くが持っている「台湾意識」と審査員の意識の剥離が感じられるところも無きにもしもあらず。
金馬奨自身が毎年のように、それに関わる様々な立場の人に、金馬奨って一体なんなのだろう?って問いかけているようなところが、金馬奨にはある。
それは同時に「台湾って一体なんなのだろう?」って考えることに似ている気がする。


そういう意味で、今回一番のクライマックスは、ドキュメンタリー部門で最優秀賞に選ばれた「日曜日式散歩者」のプロデューサー・鴻鴻氏の

今回の金馬賞のなかでドキュメンタリーは最も激しい争いだったと聞いている、まずは同業者の皆さんに尊敬の念を送ります。
《戀戀風塵》はじめ、すべての作品が国語のみで作らねばならない時代もあった。
しかし今回のように、殆どが日本語で作られたドキュメンタリーが最優秀賞を取れるというのは、台湾が本当に自由で独立したクリエイティブな場所だということを意味しています。その自由と平等の精神のもと、皆さんに同性の婚姻の法制を支持してほしい

という受賞の言葉、そしてプレゼンターとして出たジョセフ・チャン鳳小岳の「BF*GF」コンビが、「ぼくは男朋友」「ぼくも男朋友」と自己紹介しながら抱き合い、法制化のために立法院周辺でスッタモンダしている同性婚への支持を、それぞれ表明したことだった。
こういうところ、台湾らしくていいなあと本当におもうし、金馬授賞式を観る楽しさの一つだと思う。


来春には魏徳聖監督「52Khz,I love you!」陳玉勲監督の「健忘村」も控えている。 
今年の悔しい思いをバネにして、来年の金馬での台湾映画の反撃に多いに期待したいところだ。













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