2016年11月16日水曜日

【台湾ドキュメンタリー映画】單車天使~自転車にのった天使たち。


先日おとずれた台東の街で、道路脇がかなり贅沢に自転車用道路として線が引かれてあり、「環島」(台湾自転車一周)しているサイクリストたちが気持ちよさげに走っているのを観た。
近年、台湾は自転車ブームだ。
それもそのはず、台湾は世界最大の自転車メーカー「GIANT」を擁している。
台北も「GIANT」の管理する公共シェアバイクシステム「YouBike」がうまれて以来、ずいぶんと利便性を増した。台湾一周のコースとなる要所要所にも「GIANT」が設置した自転車用の休憩所が設置されており、台湾における自転車旅行の環境は年を追うごとに良くなっているといえそうで、日本から走りに来ているひともふえているみたいだ。
とはいえ、台湾の田舎の道は車も平気で車線越えてきて危ないし山も多いので、大人といえど結構ヘビーな経験に違いない。

そんな自転車での「環島1200キロ」を、孤児院の子供たちが達成してのけたドキュメンタリー映画が公開になった。タイトルは「單車天使 ~Cycling Angels」。



「ややこしい環境のなかでいろんな歪みを抱えた子供がここに来る。
私たちはその子どもたちの歪みを時間をかけて少しずつ整え、子供を覆っている色んなものを取り除いてあげる。そこで現れるのは、とても純粋で無垢なひとりの子供の姿なんです。」
(雲林私立信義育幼院・呉院長)



ベトナム戦争以降に急速に発展した台湾の経済は、とくに近年はアジアにおけるハイテク産業の拠点として発展がめざましい。シャープをはじめ台湾企業による日本企業の買収も最近大きな話題となったし、台北の街をあるけば目につくのは高級車だらけ。ポロシャツをスラックスにインする見かけはかなり地味だが、実はすごい金持ちの中小企業の経営者、なんて人がゴロゴロしている。
しかし台北から離れて南のほうへ行けば、事情は少し違ってくる。
たびかさなる台風被害や洪水などの自然環境も影響し、台北と地方との格差は大きい。
それを皮肉って、地方のひとは台北のことを「天龍國」、台北に暮らす人のことを「天龍人」と言ったりする。もともと日本の漫画の「ONE PEACE」の中に出てきた特権階級を持った人々をあらわす言葉が流行したものらしい。

台湾の中でも、とくに経済的に苦しいと言われている県が苗栗県、そしてこのドキュメンタリーの舞台となる児童施設「雲林私立信義育幼院」のある雲林県だ。
経済的・社会的な歪みは、最終的にいちばんの弱者である子どもたちに、しわ寄せとしてやってくる。
「育幼院」で暮らしているのは、身寄りのない子どもと限らない。本来は子供を保護する役目をもつ親が、貧困・アルコール中毒・麻薬中毒・虐待・ネグレクトなどで子育てを担うことができないケースも多い。
しかし子供は、親を選ぶことはできない。そして、どんな親を持っても、子供がいちばんに願うことは「回家」(家にかえる)ことなのだと、呉院長は言う。
「子供がここに来た日から、すべては”いつか家に帰る”ことを目標に子供の成長を促すのが、わたしたちの役目なんです。」


少年よ大志を抱け、という言葉がある。
子供が描く絵がどれも素晴らしいように、理想や夢が小さなからだの中いっぱいにぎゅぎゅうと詰まっているような、そんな単純なイメージをわたし達は子供に対して抱きがちだ。
でも、施設で育っている子供は時にそうではない。
学校のあるカリキュラムで、施設で育った子供と一般的な家庭の子供をいり交え、自分の将来の計画を作文に書かせ発表させるシーンがあった。

同じ地域の一般的な家庭で育っている子供が書いた作文はこうだ。
「台大にはいって卒業して大きな会社にはいり結婚して子供がうまれ、40歳で大統領になり・・・100歳で町内会長をつとめる!」
要約するとこんな感じ。いますよね、こういう男子。子供らしく単純で、自信に満ちあふれている。

これに対して、施設で暮らすとある少女が発表した作文はつららの如く冷たく心に刺さる。
「施設を出たらクラブに勤めて、クラブで彼氏をみつけて結婚して、子供は作らない。離婚してまたクラブで彼氏をみつけて、30歳でお母さんとお父さんを探しに行く。40歳で弟や妹たちを探しに行く。最後は彼氏と一緒にビルから飛び降りて死んでおしまい、あははバカでしょ(笑いまじりに)。」

心の奥底でじぶんは必要とされていないと認識している子供たちは、自己肯定感を育めない。自己肯定ができないと、未来についても建設的な将来像が描けないのだと院長やスタッフはいう。
そこでせめて施設にいる間に、出来る限りの「達成感」を感じさせることで自信を持ってほしい。自信とは「自分を信じる」気持ちである。院長のそんな願いから始まったのが、施設の子供たちと共に自転車で「環島」(台湾一周)することだった。

十分なトレーニングをかさね、多くのボランティア・スタッフの協力を得て、2週間で「環島」する子供10名プラス大人達の冒険がはじまる。いちばん小さなメンバーは8歳の少年だ。
走るのは一般車道。川べりの自転車専用道路ならまだしも、あまりにも危険だというので、当初は誰もが反対したという。
東側のルートは、宜蘭から山側に入って台湾中央山脈の中でもかなり高度の高い梨山を通って行く。アウトドアに疎いわたしが聞いても、かなりチャレンジ性の高いコースなかんじ。

転んだり、パンクしたり、投げ出しそうになりながら、それでも再びペダルを漕ぐ子供たちを目で追いながら、わたしのハンカチはも~ビショビショだった。
がんばれ!がんばれ!子供たち!がんばれ!がんばれ!支える大人たち!
大人たちは毎晩ミーティングをかさね、危険なポイントや気付きを話し合う。転んで怪我した子供たちを優しく、ときに威勢よく励ます。

「子供はじぶんが生まれてくる環境を選ぶことは出来ない。でも、自分の足でどう歩いて行くかは自分で決められると、この台湾一周の旅を通じて知ってほしい。」

呉院長の言葉のひとつづつが力強く、まっすぐに私たちに響いてくるのは、呉院長が心から子供たちを信じているからだ。そしてまた、子供たちを信じている自分自身をも信じている。更にその信じるということの裏付けとして、出来る限りの細心と努力を惜しまない。

現代社会のなか、子供を取り巻く環境はますます息苦しくなっている。
あれ危険、これ危険。心配を理由に少しでもリスクのあるものはどんどん子供の周りから遠ざけられ、それにつれて子供が自分を信じて試す=親が子供を信じてチャレンジさせる、そんな機会は減っていく。
逆に、過保護な風潮が進んだことがリスクに対する想像力の劣化につながり、先日東京のミッドタウン・デザインウィークで起きた不幸な事故(学生がつくった木屑を散らしたジャングルジムが燃え、一名の男子が亡くなった)を引き起こす一因となったのではないか、呉院長の言葉を聞きながらふと、そんなふうに思った。


もうひとつ、子供の貧困と格差は、日本でもどんどん明らかになってきている大きな社会問題だ。
保守的な政権の下では「家庭の教育」ということが叫ばれがちだが、そこからはみ出してしまった子供たちに、最低限のセーフティーネット以上に大人や社会はどういう教育を与えることが出来るのか。そんなことを、この映画は改めて考えさせてくれるのだ。





「單車天使 ~Cycling Angels」
監督:周抱樸/2016/台湾




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