2016年12月11日日曜日

【台湾映画】一路順風 God Speed ~黄色いタクシーは小籠包の夢をみるか。


台湾生活に欠かせないもの。黄色いタクシー。
初乗り70元(250円ぐらい)なので、便利でつい乗ってしまう(最近値上がりしたが)。
危ないめ・怖いめに遭ったことは、今のところ一度もない。しかし年に一度ぐらいは日本人が何らかのタクシー関連の事件に巻き込まれるニュースを耳にする。
こちらに来て、夫に教えられたタクシーを選ぶポイントは二つ。なるべく新しい車に乗ること。大きな会社のタクシーにのること(事故ったときに保険が効くから)。

しかしいざ、街できれいなタクシーを捕まえようとすると、これがなかなか難しい。二台の車が信号待ちで並んでいる。手前のキレイ目の車に手を挙げる。それなのに向こう側にいたはずのオンボロ・タクシーが幽霊みたいにヒュ~ドロドロっとキレイ目タクシーの手前に車体を滑らせて、わたしの前にピタッとつけてくるのだ。そして、キレイ目タクシーはスッーっと走っていってしまう。
そんな時、オンボロに対して心にわきあがる「おまえじゃない」感は物凄いものがあるが、手を挙げた手前もあり仕方なくそのオンボロに乗る。
そういうタクシーは大抵、車内はスエた、何ともいえない古い髪油みたいな匂いがする。運転手さんは変に愛想がよく人良さげに笑いかけてくる。長いこと乗ってるから道にも詳しいが、運転は総じてあぶなっかしい。だからいつも、「次はぜったいオンボロには乗らないぞ」と固く心に誓うのだが、そのうちまた乗る羽目になってしまう。
これって割りと多くの人が経験したことある「台北タクシーあるある」と思うのだが、思い当たる人はきっと、この映画「一路順風」の許冠文(マイケル・ホイ)演じる香港から流れてきたオンボロ・タクシーの運転手のあまりのリアルさに笑ってしまうだろう。

「次はぜったいオンボロには乗らないぞ」と固く心に誓いながらも、何となくうっかり、絶対に再び乗ってしまうオンボロ・タクシーとは、まるで「もうその手にはのるもんか」とおもいながらまた同じような穴に落っこちてしまう人生そのものだ。

「一路順風」は、まともな職に着こうとしたのに何故か麻薬の運び屋になってしまったチンピラ・納豆(最近味わい深さを増している納豆、大好き!)と、納豆を乗せて台湾南部へと向かうタクシー運転手、マイケル・ホイが次々とヤクザのハプニングに巻き込まれる台湾版「アウトレイジ」といった感じのロード・ムービーだ。
「一路順風」とは「物事が予定通りスムーズに運ぶ」という意味で「お気をつけて」という挨拶として使われるが、意味に逆行するようにトラブルが次々起こるストーリーのタイトルとして非常に秀逸で、石橋を徹底的に叩きまくって渡るタイプの慎重な、覚せい剤をシノギにしているヤクザの親分(レオン・ダイ)も、最後は思いもよらない無意識の「裏切り」に合うのである。

そういう鍾孟宏(チョン・モンホン)監督の乾いたブラックなセンスは、セリフや細かい作りこみ、そして物哀しい台湾の田舎を舞台にしたスタイリッシュな映像美の隅々に生きている。
ちなみに、撮影監督の中島長雄という日本人大物野球選手みたいな名前は、鍾孟宏(チョン・モンホン)監督自身の別名。「中島」の中国語読みが「チョンダオ」=「鐘導(鐘監督の意)」を意味し、日本の撮影監督の名前のほうが賞が取りやすいから(笑・でも実際にスペインの映画祭で撮影賞を受賞している)とどこかで読んだが、ほんとだろうか?

この映画を観た直後に、永康街の「鼎泰豊」の前を通った。
日本人が日夜、行列をつくる一番の有名店は信義路という大きな道路沿いに立っていて、その前を一日何千台というタクシーが通る。鼎泰豊は台湾で一番有名なレストランだが、その料理は上海料理である。
香港人のマイケル・ホイ演じるタクシー運転手が、自分の誕生日にここで小籠包を食べたいと夢見る。タクシーの稼ぎは少ないが、少しずつ貯めたお金で誕生日にようやく小籠包をたべにきた。
家族を店の前でおろして、自分は遠くのただで駐車出来る場所を探して止める。2,30分ほど歩いてようやく店の前にきたところ、まだ家族は店の前で並んでいる。でも聞いてみると嫁(林美秀)は憎々しげに、「食べ終わってでてきたとこ」という。誕生日の夫のためにテイクアウトしたものさえない。それでも怒りをこらえて、マイケル・ホイは「じゃあ、車取りにいってくる」という。すると嫁が答える「もういいわ、タクシー拾ってかえるから」。
このシーンは、なんとも、やりきれなかった。
陽気なタクシーの運転手に出あうことが多いオンボロ、でもこの作品をみると、ガタガタと音を立てる彼らの後ろのトランクに眠る寂しげな物語に、目を凝らしてみたくなる。


英語のタイトル「God Speed」は「幸運を願う!」という意味で、幸運を授けてくれるのは神様だ。
人生で、本来なら一番近くにいるはずの家族が幸せをもたらしてくれなくなったとき、それでも、小さな天使が寄り添ってくれることも、あるかもしれない。
最後に小籠包を運んできてくれる納豆はだから、マイケル・ホイの天使なのである。

にしてもマイケル・ホイ、金馬とってほしかったにゃー、ニャロメ!


一路順風 GOD SPEED
監督:鍾孟宏/2016/台湾









0 件のコメント:

コメントを投稿