2017年9月2日土曜日

【山口県の旅】天上大風/周南市鹿野漢陽寺



暑さきはまり蝉澄みわたる一人(山頭火)


お寺の中にご案内いただき座って一息。
現住職夫人の杉村妙子さんが出してくださった一杯の冷茶が、水琴窟みたいに共鳴しながら喉をおちていく。
焙じた芳ばしさと、西瓜のような涼やかさがほのかに香る不思議なお茶で、このあたりの名産の「鹿野茶」というそうだ。

ここ山口県周南市鹿野の「漢陽寺」は、唐の杭州で修業した用堂明機禅師が開山した名刹で、鹿野茶はその時に持ち帰られた茶種がもとになっている。杭州といえば「龍井茶」が有名だが、鹿野茶も当時から変わらず、龍井茶と同じく摘んだその日のうちに茶葉を釜で煎る製法が伝えられている。
美味しく感じるのは、すばらしい佳人が淹れてくれたというだけではない。住職のお母様が定期的に茶葉をふたたび台所で半日ほどかけてじり、じりと煎る、その煎り方に秘訣があるらしい。
「義母のように美味しく煎ることができるようになるには、まだ時間がかかりそうで」と妙子さんがほほえむ。
伝統を重んじつつモダンを感じる日本式庭園がぐるりと囲む荘厳な本堂は、樹齢2000年を超える台湾ヒノキだそうだ。
前住職の庭造り好きが高じ、8年をかけて昭和41年に完成した庭を作ったのは重森三玲、昭和を代表する日本庭園の作庭家であり研究者である。

6つの庭園にはそれぞれ、平安・鎌倉・桃山など異なる時代の庭園様式が盛り込まれ、重森美学をたっぷり贅沢に堪能できるが、どの庭にもどこか親しみを覚えるのは、使われている石のせいだろうか?
山口の防府大道辺りから東に行くと、ゴツゴツと尖った岩肌の山が多くなるが、庭を彩る石たちは、そんな山口東部の山の形を彷彿とさせる。
それもそのはず「庭の石にはその土地のものを使うべし」というのが重森三玲のポリシーだったそうで、県内のどこそこにイイ石がある、台風で道路を塞いだイイ巨石がある、と聞いては前住職と連れだって駆け付けたという。



中庭に7つの石が追いかけっこをするように丸く置かれた石庭があり、「地蔵遊化の庭」と名付けられている。
遊化=遊戯は仏教から来た言葉で、生きること自体を楽しみ遊ぶ境地をいうらしいが、それを聞けばこの重森三玲と前住職が8年がかりで作ったこの庭達そのものが「遊化」といえるのかもしれない。
ちなみに地蔵遊化とは、お地蔵様が子供たちと無心に遊ぶさまである。そう聞いて思い出すのが良寛和尚のことだ。子供たちと隠れんぼしたり鞠をついて遊ぶ事を何より大事にした良寛和尚は、子供が揚げる凧にどこまでも高く上がるようにとの願いを込めて「天上大風」と書いた。

そこからまた連想したのが、台湾の台東にある、同じく「鹿野」という場所で上がる熱気球。
偶然にも台東鹿野もまた茶の産地だが、その台東を舞台にしたドキュメンタリー映画の公開が全国各地で始まっている。酒井充子監督による『台湾萬歳』で、台湾の日本語世代の方たちの半生を追った『台湾人生』『台湾アイデンティティ』に続く台湾三部作の最後の作品である。酒井監督の出身地は山口県周南市で、じつはこの漢陽寺さん、酒井監督にお薦めしていただいた。
10月には、地元周南市のMOVIXでもお披露目会があると聞く。お近くの方はぜひ足を運んでみてはいかがだろう。

酒井監督が映画に込めた想いが、高く広く届きますように。
台北でも早く上映されてほしいものだ。


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