2018年2月27日火曜日

【山口新聞連載第三回】上山満之進/山口、台湾さがし。


(2018年2月15日付)
第3回「山口、台湾さがし。/上山満之進

2015年、防府市立防府図書館の倉庫から「陳澄波」と署名の入った古い油絵が発見された。作品名は「東台湾臨海道路」。海に面した断崖絶壁の中腹には、1932年に開通した台湾東海岸の「蘇花公路」が長くのびる。その路上を歩くのは台湾の先住民族の親子だ。木製の額縁にも見どころがある。台湾・蘭嶼島に暮らす先住民「タオ族」の舟の木材を用いたとみられ、表面にはタオ族独特の意匠が彫り込まれている。この絵を描いた陳澄波、実は台湾を代表する油絵画家で、国際的なオークションに出品された絵はどれも数億円の値が付く有名作家だ。どうして防府市でそんな絵が見つかったのか?それは、この防府市立防府図書館の前身「三哲文庫」と深い関係がある。

「三哲文庫」は、第11代台湾総督をつとめた上山満之進が、愛する故郷の文化育成のため私財を投げ打った地域の図書館である。陳澄波の絵も、上山によって蔵書と共に三哲文庫に寄贈された一つだった。
上山満之進が台湾総督を務めたのは1926~28年まで、わずか2年の間ではあったが、倒産の危機にあった台湾銀行の建て直しや台湾大学の前身である台北帝大の設立など、その仕事は多岐にわたった。なかでも注目に値するのが、総督を退く際の慰労金を用いて台北帝大に依頼した台湾の先住民言語に関する研究で、近代以降に多くの先住民文化が失われた今や、その研究成果は非常に貴重なものと評価されている。

現在の防府図書館内にある上山満之進についての資料室には、上山が先住民の村へ視察に出かけた際の新聞記事も多く展示されているが、当時の行政官の巡視によく見られた高圧的な態度はなく、親しみにあふれる訪問だったと書かれている。
台湾で生まれ育った元山口県知事・小沢太郎氏も、大学院時代に防長教育会の例会で講演した「台湾タイヤル族の社会における高度な民主秩序」という内容に上山が興味を持ったことがきっかけで、台湾総督府への就職が決まったと自伝「風雪」に記している。それほどまで、先住民へ深い関心を持っていた上山が、台湾生活の記念として陳澄波に依頼した絵、それが冒頭の絵「東台湾臨海道路」だった。現・台湾総統の蔡英文氏が就任後の演説で、「原住民こそが台湾本来の主人であり、その生活と文化は尊重されるべきである」と語ったのは記憶に新しいが、実際に台湾では今も、伝統的な土地や文化を手放さざるを得なかったり、苦しい生活を強いられている先住民は多い。しかし80年も前すでに、先住民に対してきちんとした理解を備えていた山口県人がいたことは、私たちの記憶に留めておくべきだろう。

80年の時を超えて発見された「東台湾臨海道路」はその後、福岡アジア美術館で修復され、2017年の夏より一般公開されている。防府市では、再び絵を防府市に迎え、それをきっかけに台湾嘉義市との友好交流を進めたいという市民の声も盛り上がっているそうだ。近い将来、防府市で「東台湾臨海道路」に会える日を心待ちにしたい。
(写真・文/栖来ひかり)



(三哲文庫のあった防府市中央町2の公園=防府市)

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